●ヴォルフガング・シュルツ(fl)のコンチェルト・レコーディング/キンボー(指揮)カメラータ・シュルツ
2012年3月13〜15日/スタジオ・バウムガルテン(ウィーン)
【曲目】
カール・ライネッケ(1824~1910):フルート協奏曲 ニ長調 作品283
フランツ・ドップラー(1821~1883):2本のフルートのための協奏曲 ニ短調(アンドラーシュ・アドリアン校訂版)
カール・ニールセン(1865~1931):フルート協奏曲
2011年で65歳を迎えたヴォルフガング・シュルツは、いよいよウィーン・フィルを引退することになりました。彼の後継者を決めるウィーン・フィルのソロ・フルーティストのオーディションに合格した、いまフルート界で話題のカール=ハインツ・シュッツがウィーン交響楽団から移ってくるのを待って引退と決まっていましたが、シュッツとウィーン交響楽団の契約が2011年の12月まで残っており、シュルツの引退も2011年度中は延長となっていました。
そして2012年。やっと時間もでき、曲をさらうにも余裕ができたとあって、3月13日から、永年録音したかった3曲のフルート協奏曲に取り組むことになりました。
指揮は、草津音楽祭で意気投合した、キンボー・イシイ=エトウ。多忙な彼は、アメリカでの仕事を終えて、レコーディング・セッションぎりぎりにウィーンに到着しました。
もともとキンボーは、子供の頃からウィーンでヴァイオリンをヴァルター・バリリに師事したウィーン子なのです。シュルツと私は、ゆくゆくは彼にウィーンの国立歌劇場で指揮をさせたいと念願しつつセッションに臨みました。ウィーン国立歌劇場の総裁ドミニク・マイヤーさんに、是非セッションに来てキンボーの指揮を見ていただきたかったのですが、スケジュールがザルツブルク・イースター音楽祭で行なわれるサイモン・ラトル/ベルリン・フィルによる「カルメン」とぶつかって、残念ながらその機会は失いました。必ずキンボーがウィーンでも活躍する時代が来る、とシュルツをはじめ多くの人が認めてくれています。彼を子供の頃から知っている私としては、そんな時代が来ることを考えると嬉しいのですが……。
さて、本題のレコーディングですが、曲目は3曲。
どの曲もオーケストラ・サイズは大きく、ドップラーはハープ、トロンボーン×3、打楽器×2。ライネッケは2管編成にホルン×4、トランペット×2、打楽器×2。
ドップラーの2本目のソロ・フルートはシュルツの息子のマティアス・シュルツを迎えました。
録音は3月13〜15日。新装なったバウムガルテン。
キンボーはセッション・レコーディングは今回が2枚目。セッションでの録音は、音楽上、完全を目指し、妥協が許されないことをよく承知していて、オーケストラに細かく指示して行きます。プロデューサーにとっては頼もしいパートナーです。
オーケストラは、ヴォルフガング・シュルツのウィーン・フィル・リタイア記念にふさわしい、シュルツのファミリーや友人たちが集まった「カメラータ・シュルツ」。彼の弟で、ウィーン交響楽団のソロ・チェリスト、ワルター・シュルツ(打ち合わせ中の2ショットを撮影しました!)が加わり、コンサートマスターは娘のヴェロニカ・シュルツ。ホルンは、オラ・ルードナーと故・中島幸子さんの息子で、シュルツ家で育ったヨナス・ルードナー、ヴィオラは教師として、また、ウィーン室内管でも永く弾いてきた奥さんのウラ・シュルツと、まさにファミリーを集めたオーケストラです。日本人では、コントラバスに須崎昌江が参加しています。
前日12日のリハーサルと3日間のレコーディングでしたが、予定通りのセッションで完璧な収録を無事終えました。
●モーツァルト=ヴェント編曲のフルート四重奏版「後宮からの逃走」/シュルツ(fl)ウィーン・フィルハーモニア弦楽三重奏団
2012年3月19〜21日/カジノ・ツェーガニッツ(ウィーン)
【曲目】
モーツァルト:「後宮からの逃走」(ヨハン・ヴェント編曲によるフルート四重奏版)
モーツァルトが生きていた同時代、オーボエ奏者でモーツァルトとも親しかった、ヨハン・ヴェント(Johann Wendt/1745~1801)が、1784年に編曲した、モーツァルトのジングシュピールとしてウィーンで最初に成功した後宮からの逃走」のフルート四重奏版。
こういう編成の編曲は、レコードのない時代、オペラを人々が身近に聴くためには必要性が高かったわけで、管楽アンサンブルへの編曲の「ハルモニームジーク」と同様、「ハウスムジーク」として色々なところで演奏されました。
ヴェントはダ・ポンテの台本になるモーツァルトのオペラはもとより、今回の「後宮からの逃走」と同じジングシュピールの「魔笛」もフルート四重奏曲版に直しているが、今回のレコーディングでヴォルフガング・シュルツとウィーン・フィルのトップ奏者たちによる全編曲版が完成したことになります。
録音は、3月19日から21日までの3日間。会場は、ウィーンのドブリンガーハウプト通りにある、カジノ・ツェーガニッツ。弦や管の響きによく反応するこの会場は、その昔、ヨハン・シュトラウスI世がハウスカペルマイスターを務めていたボールルームで、永くテルデックによって録音スタジオに使われていました。
モーツァルトのオペラを知り尽くしたウィーン・フィル・メンバー〔ペーター・ヴェヒター(vn)、トビアス・リー(va)、タマーシュ・ヴァルガ(vc)〕の愛情ある演奏によって、よい雰囲気で収録の仕事を終えることができたのは、私には何よりも嬉しいことでした。
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