レコーディング・ニュース(2012年5月/イタリア)

ショパン、シューマン:ピアノ協奏曲(オルガン伴奏版)
2012年5月12日~17日/トラッパニー(イタリア)
【曲目】
ショパン:ピアノ協奏曲(オルガン伴奏版)
シューマン:ピアノ協奏曲(オルガン伴奏版)

 イタリア録音が多い我々も、シシリア島でレコーディングというのは初めての経験で、録音機材をウィーンからローマまでドライブして運んだあと、そこからフェリーに乗せてパレルモへ。怠け者の私はウィーン―ローマ―パレルモとアリタリアの飛行機で移動しました。
 いよいよ3台のマニュアル(演奏台)がある世界中でもこんな不思議なオルガンは見当たらないという、トラッパニーのサン・ピエトロ教会のオルガンでの録音。これはクラウディオ・ブリツィならではの斬新な企画で、このオルガンを使ってショパンとシューマンのピアノ協奏曲を録音しようというのです。
 このオルガンの最大の特徴は、3台の演奏台にそれぞれ2人の奏者が担当すれば、6人のオルガン奏者で競演(共演)できる、というところです。
 オルガン内部のパイプ部分に入ってみるとわかりますが、通常のトランペット管やフルート管といったものの他に、打楽器のティンパニーやスネアドラムまでキーボードで演奏できる仕掛けがしてあります。
 これを制作したのは、イタリア人のオルガンビルダー、フランチェスコ・ラ・グラッサ (Francesco La Grassa) で、80のレジスターと4000本のパイプを持つ大きなこのオルガンが完成したのは1847年のことでした。
 このオルガンに対して独奏ピアノとして選ばれた楽器は、奇しくもオルガン完成と同じ年に製造された1847年製「エラール」で、ショパンは当時、フランスでこの楽器を弾いていたから、時代考証はピッタリ。Aのピッチは375でまさに古楽器の世界で、それにしてもこのエラールの中音域の柔らかく優雅な響きは、何とも魅力的で、それを録音でどう録音するかが我々の課題でした。
 ソリストはまず音楽的な流れが豊かで、しかもミスをしない完璧なテクニックを持ったピアニストということで、ロンドンから岡田博美さんをショパンのソリストに招き、シューマンのソリストにはクラウディオの親友であり、天才肌のピアニスト、コスタンティーノ・カテーナが選ばれました。
 まず、5月11日にサン・ピエトロ教会でのコンサートがトラッパニーの楽友協会 (Amichi Della Musica, Trapany) 主催で行われ、翌日11時には地元の中学生、高校生を集めて学生コンサートを開催しました。

 録音はその12日の夜から17日の朝6時まで。ともかく、外部の騒音を避けるため、毎夜8時~9時スタートで、昼間はひたすらオルガンとピアノのチューニングという生活でした。

 共演のオルガニストは、ケルンからヴォルフガング・アペンドロートとヨハネス・ゲッフェルトの2人が来て、3名のイタリアのオルガニストがアシスト。
 編曲兼指揮(ミラーを通してピアニストと仲間に指示を送る)、そしてメインのオルガンを弾いたのがクラウディオ・ブリツィというわけです。

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