〈イ・ソリスティ・ディ・ペルージャ〉のメンバーやクラウディオ・ブリツィがイタリアのウンブリア州に住んでいることから、この数年カメラータのイタリアでの録音の中心地は、ペルージャから30Kmほど北西に行った人口1万数千人の小さな街、ウンベルティーデです。この街の聖クローチェ美術館が録音会場で、ここで我々は多くの録音をさせてもらっています。
ここは元々教会で、シニョレッリの『十字架の上のキリスト像』とポマランチョの『聖母マリアの像』という2点の国宝級の絵画があり、隣には聖フランチェスコ教会があることもあって、現在は金曜日から日曜日の3日間だけオープンする美術館になっています。
この元教会は、よくあるオーバーエコーの教会とは違って、容積が大きすぎず、小さすぎないというクラシック録音には最高の「響」をもたらせるホールとなっていて、祭壇の下に音源を設定することで、最も抜けのよい音と位相も得られます。世界中でこんな素晴らしい録音場所はない、と私は思っています。自分の生涯の中で、この場所に出会えたことを神に感謝しているほど大切な出会いだったと言えるでしょう。
その聖クローチェ美術館で、今回は3月26日から4月5日まで、ファツィオーリの最高のグランドピアノを借りて、11日間で4枚分のレコーディングを行なうことに成功しました。
●フランツ・リスト:ピアノ・トリオ3曲+チェロ・ピース
2012年3月26、27日/聖クローチェ美術館(ウンベルティーデ,イタリア)
【曲目】
フランツ・リスト:
ハンガリー狂詩曲第9番「ペシュトの謝肉祭」(ピアノ三重奏曲版)
忘れられたロマンス
悲しみのゴンドラ
ノンネンヴェルトの僧房
エレジー(悲歌)第1番、同第2番(チェロ&ピアノ版)
2011年はリスト生誕200年の記念の年でしたが、その年に始めた3曲のピアノ・トリオの録音を、イ・ソリスティ・ディ・ペルージャのリーダー=パオロ・フランチェスキーニと、このところリストのヴァイオリン作品全曲録音のピアノで注目を浴びるコスタンティーノ・カテーナの2人に委ね、2011年6月にすでに2曲(うち1曲はサン=サーンス編曲)収録していましたが、1曲「ハンガリー狂詩曲 第9番」(ピアノ・トリオ版)は録音していませんでした。
リストの室内楽作品は、例えば『ニュー・グローヴ音楽事典』の第1版では、「CHAMBER MUSIC」のリストを開いてみても、これらピアノ・トリオはまとまっては掲載されておらず、ヴァイオリン・ソナタも生誕200年の2011年を迎えるまでは、一般にはほとんど聴かれていなかったと言ってよいでしょう。
ピアノ・トリオは1996年イギリスの“The Hardie Press”からパート譜が出版されており、かれこれ15年も経ていますが、これとてほとんど知られていないのではないでしょうか。一見、譜面を見ると穴のあいた2分音符が多いので、リストが精緻に書いた作品ではないと判断されがちですが、音に直してみると、その音楽は充実したもので、いかにもリストらしい考えが伝わってきます。
今回収録した「ハンガリー狂詩曲 第9番『ペシュトの謝肉祭』」は、ヴァイオリン・パートがまるでパガニーニのヴァイオリン協奏曲並みに難しく書き込まれていて、パオロ・フランチェスキーニは、自分のものにするのに半年間かかったそうです。その成果でしょう、レコーディングではもう自由自在に弾きこなし、結果は我々も満足のレコーディングで、見事な録音が完成しました。
ただ、3曲のピアノ・トリオ(実はもう1曲あるのですが、残念ながらこれはピアノ・パート譜のみしか残っていないようです)では40分しか音源がないので、この録音に初めて参加したチェリスト、クラウディオ・カサデイのソロで、リストのチェロとピアノの小品を収録しました。多くはヴァイオリンとピアノの小品からの編曲ですが、上記の曲目をフィル・アップしました。
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