カメラータ・トウキョウ レコーディング・ニュース
 
ブリツィによる La Chiesa di San Pio でのオルガン楽曲収録
  2005年7月1日〜7日 イタリア

 今回のイタリアは南プーリア州のガルガーノ半島の中央にある巡礼が詣でるサン・ジョヴァンニ・ロトンド(San Giovanni Rotondo)。1968年に亡くなって、その20年後の1987年に聖人とローマ法王から認められた聖パドレ・ピオ(Padre Pio)という人がここに住み、数多くの奇跡を起こしたと言われ、今も彼を慕って多くの人が巡礼のためこの地を訪れる。ここに7000人もの人が入る新しい教会 "Chiesa di San Pio" が2004年に建てられ、イタリア中の最高の芸術家や制作者が結集して作った聖堂に、グイド・ピンキーの制作したオルガンも入ったことを発端に、信者のためにこの聖堂での初めてのオルガンの録音が許可され、カメラータのアーティストとして活躍中のオルガニスト、クラウディオ・ブリツィが次のプログラムを7月1日から6日間にわたって録音することが決まり、我々はそのために日本から呼ばれた。
聖パドレ・ピオ
聖パドレ・ピオの像 
ピオ大聖堂
ピオ大聖堂の祭壇。奥にパイプオルガンが見える。
まずは正確なる録音データ。
〔収録曲目〕
J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV.565
      コラール BWV.646, 727, 728, 737
フランツ・リスト:バッハの名前(BACH)によるプレリュードとフーガ
メンデルスゾーン:ソナタ 第6番 ニ短調 作品65-6(名曲である)
プーランク:オルガンと打楽器のための協奏曲 ト短調
 オーケストラは Orchestra Sinfonica della LUCANIA (Basilicata) でオケは最南端マテーラに在る。指揮者は作曲家でもあるPasqale Menchise。打楽器のソリストは Nunzio Pietrocola。
 今回、レコーディングに使った教会は、La Chiesa di San Pio という名前で、2004年1月に完成した新しい建物。教会と呼ぶには、あまりにも我々の概念と懸け離れた近代建築。建築家は Renzo Piano という人で、関西空港を設計した人でもある。中央にぶら下がっているクロスや、扉の彫刻やオブジェは、Arnardo Pmadoro の作品。イタリア最古の芸術家の一人。祭壇の傍の大理石の彫刻は Guuliano Vangi。そしてオルガンは、Guido Pinchi の作品415号。私はたくさん写真を撮ったが、使用は全てのアーティストの許可がいるらしく、写真で使えるのはオルガンだけ。教会内にある椅子の重さは350キロ。動かしたくっても、動かない。7000人が収容でき、輪になっているオブジェの重さは60トン。とにかく、我々の規模では考えられないほどの大きさ。

プーランク
祭壇の上にセッティング。 
プーランク
 打楽器奏者Nunzio Pietrocola
プーランク
プーランクの協奏曲の収録風景。
 初日のプーランクの協奏曲は、Tempo Allegro, Molto Agitato までを収録。2日目は日曜日とあって5000人のキャンドルサービスがあってミサが夜の11時まで。風が強いため巡礼として外を歩くのは中止となり、結局11時半にオーケストラは集合。録音がスタートしたのは夜半をとっくに過ぎ1時少し前。教会で通常に演奏するとオルガンの音で弦は聞こえない部分が多いこの曲で、Chiesa di San Pio は反響音が少なく膨大なスペースがあるため助かって、音楽上のバランスをかなり巧みにとる方法を見つけ、この曲の画期的なレコーディングにたどり着いた気がした。
 前半の Allegro gio coso はブリツィのオルガン・ソロのリードでかなりテンペラメントの強く速いテンポをオーケストラから引きだすことに成功したため、この曲の構成の上で大いに助けられた。後半も始まりの Tempo Allegro, Molto Agitato が大変で、オーケストラがピッタリ合ってくるまで何回も録っては聴かせて、また奏かせ、完璧になるまで待つ。半分のこの部分にOKを出したのが夜半3時。みんなここで休憩して飲物。夜が涼しいのが助かる。
 ともかく言葉で英語が通じるのは一人ヴィオラのトップだけという中で、全ての注文を彼が訳して進行。その内徐々に私とオーケストラのコンサートマスターや各セクションのトップと信頼関係が出来てきて和やかに。休憩は果物の差し入れまでをもらう。最後にヴィオラのソロ、短いチェロのソロがあって、アティキュレーションをもっと長いフレーズで奏いては…とアドバイスして、それがうまくいって本人も喜んでくれる。朝5時に全曲収録。ホテルに戻って朝焼けのアドリア海を見ながらワイン、シャンペンで乾杯! 6時を過ぎる。

Pasqale Menchise
指揮者Pasqale Menchise(左)とブリツィ 
ピンキー
 オルガン制作者グイド・ピンキー
 3日目、ソロはブリツィだけの録音。トッカータとフーガ ニ短調 BWV.565でスタート。これはすでにサンタ・マリア・デリ・アンジェリでレコーディングしたCDに収録済みだが、Chiesa di San Pio の要望により収録する。夜9時半からはじまってこの曲の音決め(この場合2つの意味があって一方は録る側のマイクセッティング。もうひとつはオルガン側のパイプ選定)に何と12時夜半までかかってしまう。いつものこととは言え、ともかく音楽的に聴きたい音が来るまで、双方で試してはプレイバックを聴くのが唯一の方法。
 調律のクラウディオ・ピンキーが傍らにいてくれて、今はどのパイプをつかっているか説明してくれるのが大いなる助けとなったが、それにしても理想の音のゴールははるか先。トッカータが終わったのが夜半の3時。その間クラウディオ・ピンキーが数回調律。低音のパイプが温度の変化でピッチまで変わってしまうのには驚かされた。

オルガン
オルガン
 今回選んだのはピンキーの5866本のパイプを活用したグランドオルガンの作品。と言ってもバッハのコラール8曲はこのオルガンがなくっても録れるが、今回の一番の目的はメンデルスゾーンのソナタ6番と、リストの「バッハの名前(BACH)によるプレリュードとフーガ」である。
 調律にはクラウディオ・ピンキーが終始付き添ってくれ、オルガンのアシスタントには Dario Tamasso (ブリツィの弟子)がついた。エンジニアの高島君は毎日マイクロフォンをセットしては朝5時半に片づけると言う苦労の連続。この4人のチームワークで夜半のレコーディングが何とか続けられたという訳である。勿論、毎日お昼の1時までは寝るが、その合間をぬって書かねばいけない原稿もあった。巡礼者の宿としてのホテル周辺に普通の店はなく、教会を目指してくる人達の教会グッズ、特に Padre Pio の像や写真しか売っていないとあって、私もワインをひかえ、まさに巡礼者の一人になった気分だった。
 
 朝が明ける。その日録音したオルガン音楽は、クラウディオ・ピンキーの澄んだ調律と、ブリツィが納得行くまで数多くのテイクを重ねた事で、最終的には通しての演奏でOKにたどりついた。編集で修正するとしても1、2カ所で済むほど完成度は高い。テンペラメントのある演奏がブリツィの信条であるが、すべてOKのテイクが出来上がった後、リラックスして「通しのテイク」を2、3回奏く時、彼の特質が見事に発揮されたという事かもしれない。今回もきついレコーディングだったが、純粋で貴重な音楽的時間をブリツィ等と過ごすことができた。

パノハSQ
パノハSQ
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